クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別の費用と収入【2020】

2020年12月17日

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クリニックを開業するにあたり、開業資金の調達はもっとも大きな課題である。

例えばテナント開業の場合、内装費用のみで考えると、内科クリニックでは内視鏡など設備がなければ2,700万円程度になる。

しかし、MRIやCTなどの大型医療機器、シールドやX線防護工事などが必要な脳神経外科クリニックは6,000万円程度必要になる。

このように、開業資金は診療科目によって大きく異なるのが現状である。

本記事では、必要な開業資金や設備費用を診療科目別に詳しく紹介するとともに、クリニック経営を成功させるにあたって押さえておきたい3つのポイントをご紹介する。

クリニック開業資金はいくら必要なのか?

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医師専用サイトが640名の医師に対して行ったアンケート調査によると、調達した開業資金の額は、5,000~7,000万円という回答が全体の2割に及んでいる。

また、自己資金のみで賄い足りない部分は数十万~数百万ほど調達したという回答が全体の3割程度である一方、一億円以上の開業資金を準備したという回答も2割弱を占めている。

つまり、開業する診療科目や、クリニックのコンセプトにより必要な開業資金は大きく異なるという事なのである。

また、クリニックの開業資金は、クリニックの敷地面積や設備によって大きく異なるが、有床(入院ベッドがある)か無床かでも必要なコストが変わってくる。

建築基準法では、入院のためのベッドを20床以上有していれば「病院」であり、19床以下は「診療所(クリニック・医院)」となる。病院も診療所も特殊建築物に該当するが、入院ベッドのない無床のクリニックであれば特殊建築物とはならない。

特殊建築物は立地条件や防火設備、構造や工事中の取り扱いまで厳しい義務が課せられており、建物のメンテナンスや維持管理が重要になる。維持管理にかかる費用が開業時に、あるいは将来的に必要になってくることを踏まえ、入院ベッドの有無も検討することをおすすめする。

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初期費用と内訳

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一般的な内科クリニック(テナント開業)の初期費用の例を見てみると、下記のようになる。

  • 内装造作費    2,400万円……院内の床や壁などの内装や照明、空調など
  • 医療機器     2,000万円……電子カルテ、一般撮影装置、心電図、CRなど
  • 什器・備品     200万円……ソファーや診察台、カウンターやレジスターなど
  • 敷金(保証金)   240万円……テナント月額の6~12か月程度
  • 礼金+仲介手数料   80万円……賃貸人、不動産会社に支払う費用
  • 前家賃        80万円……賃貸契約開始から開業前までに発生する家賃
  • 運転資金     3,500万円……開業当初からかかる人件費などの固定費
  • 医師会入会金    200万円……各医師会により差がある
  • 広告宣伝費     300万円……開院チラシ、ホームページ、看板など
  • 消耗品・予備費   200万円……診察券などの印刷物、事務用品、医薬品や予備費
  • 合計       9,200万円

初期費用として、まず自己資金がいくら調達できるかを検討し、残りを借入などで賄う。

自己資金の目安は、総投資額の5~10%を準備するのが望ましいだろう。

診療科目別の設備費用と収入

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クリニックの開業資金や診療報酬(収入)については、クリニックのコンセプトにより変わってくる。

戸建てにするかテナント開業にするのか、また最低限の医療機器のみで開業するのか、他のクリニックと差別化を図れるような目玉となる医療機器を導入するのかでも違いが出るのだ。

下記で、診療科目別に必要な設備費用と収入をご紹介する。

※収入とは、「医業収益+介護収益-諸費用」の損益差額を指す。

※収入は、厚生労働省の「第22回医療経済実態調査(2019年度)」の個人診療所の集計を参考に記載。

一般内科

  • 開業資金:5,000万円~8,500万円
  • 年収:約2,461万円 (月収:約205万円)

戸建て開業は、保証人がいる場合や土地がある場合は、自己資金はなくても開業可能である。

テナント開業資金は、運転資金も含めると6,000万円~8,000万円ほど必要になるだろう。

消化器内科(胃腸内科)

  • 開業資金:7,000万円~10,000万円
  • 年収:約2,461万円 (月収:約205万円)

自己資金は1,000万円程度用意をするのが望ましいだろう。一般内科の設備に加えて、下部内視鏡検査を行うかどうかで面積や設備も変わる。

また、損益分岐点を超えるまでに運転資金が必要になるため、設備資金と合わせて7,000万円程度の運転資金が必要になる。

呼吸器内科

  • 開業資金:7,000万円~8,500万円
  • 年収:約2,461万円 (月収:約205万円)

喘息、小児ぜんそくの患者の獲得が重要となる。

また、2020年度は新型コロナウィルス感染症の影響もあり、呼吸器内科の重要性が高まっている。発熱外来の時間帯を分けることや、患者が安心できる明瞭な感染症対策など、時流に沿った対策を講じ、必要なコストを見極めることが重要になる。

循環器内科

  • 開業資金:6,000万円~15,000万円
  • 年収:約2,461万円 (月収:約205万円)

自己資金なしでも開業できるが、1,000万円程度の自己資金の用意があれば余裕が生まれるだろう。

テナント開業資金は運転資金も含めて6,000万円~8,000万円、戸建ての開業資金は10,000万円~15,000万円程度になるだろう。

内分泌・糖尿病内科

  • 開業資金:5,000万円~8,500万円
  • 年収:約2,461万円 (月収:約205万円)

糖尿病内科は管理栄養士と看護師の獲得が肝要になる。また、近辺に専門医のライバルがいなければ自己資金がなくとも開業可能である。

脳神経内科

  • 開業資金:8,000万円~
  • 年収:約1,000万円~1,500万円

脳神経内科の開業医は全国的に少なく、2500名程度だと言われている。

特に地方では脳波測定、CTやMRI、心電図などの脳や心臓の医療機器一式をそろえる必要があり、設備費用だけで数千万円の資金が必要になるだろう。

脳神経外科

  • 開業資金:6,000万円~25,000万円
  • 年収:約1,927万円 (月収:約161万円)

都市部では画像診断センターと連携を取ることで、CTやMRIを持たない開業が可能となり、自己資金なしでも開業できる。

収入にも大きな差があり、安定すれば3,000万円~8,000万円の収入が見込める。

皮膚科

  • 開業資金:2,000万円~
  • 年収:約2,710万円 (月収:約226万円)

保険診療と美容皮膚診療を併用する場合、美容系機器の導入に1,000万円以上の費用がかかる。設備費用を抑えれば自己資金なしでも開業が可能な場合がある。

また、診療科目の中でも最も患者一人当たりの診療単価が低い科目になるので、効率よく患者を診療できるような体制づくりが必須になるだろう。

整形外科

  • 開業資金:6,000万円~15,000万円
  • 年収:約2,989万円 (月収:約249万円)

テナント開業であれば、自己資金なしでも開業可能である。

マッサージ機などの高価な設備に費用をかけるか、理学療法士のリハビリテーションなど人件費や施術に費用をかけるかで、クリニックの特色が現れる。

また、リハビリテーションの種類を医療保険にするか介護保険にするかによっても効率性や採算性が異なる。

小児科

  • 開業資金:4,000万円~
  • 年収:約3,068万円 (月収:約256万円)

家族での来院を意識した駐車場や、おたふくかぜや麻疹など感染性の強い患者の隔離室、キッズルームなど、小児科ならではの設備費用が必要になる。

産科・婦人科

  • 開業資金:5,000万円~6,000万円
  • 年収:約4,396万円 (月収:約366万円)

女性医師というだけでクリニックの強みになるが、妊婦検診のみか分娩も受け入れるか、また不妊治療の種類も人工授精か体外受精かで開業資金の額が変わってくる。

そのため、クリニックの方針をしっかり決めておく必要がある。

眼科

  • 開業資金:5,000万円~7,500万円
  • 年収:約1,512万円 (月収:約126万円)

顕微鏡、眼圧計、視野計、眼底検査機器、視力検査機器など、眼科ならではの設備費用が開業資金に大きく関わってくる。

また、白内障手術などの手術を行う場合は、2,000万円~3,000万円程度の医療機器や敷地面積のコストが追加でかかるだろう。

耳鼻咽喉科

  • 開業資金:5,000万円~7,500万円
  • 年収:約1,891万円 (月収:約158万円)

自己資金なしでも開業可能である。

また、設備のランニングコスト、メンテナンス料などをよく吟味し、複数の業者への見積もりをしっかり取ることで開業資金を抑えることができる

精神科・心療内科

  • 開業資金:1,500万円~
  • 年収:約2,588万円 (月収:約216万円)

精神科は、すべての診療科目の中で最も開業資金が少なく済む科目である。

専門性の高い医療機器を導入する必要がなく設備費用を抑えられる一方、臨床心理士や精神保健福祉士などの専門職にかかる人件費が大きな支出となる。

外科

  • 開業資金:4,500万円~
  • 年収:約1,927万円 (月収:約161万円)

開業は自己資金なしでも可能である。

外科診療は怪我が治れば来院の必要がなくなるので、継続的に患者が来院することは見込めない。新規患者を常に獲得するための宣伝広告に力を入れる必要があるだろう。

在宅医療(在宅診療)

  • 開業資金:1,000万円~1,500万円
  • 診療報酬単価:20,000円~30,000円/人

在宅医療とは、患者の自宅や老人ホーム等に医師が赴き、診療を行うことを指す。

また、在宅療養支援診療所としての施設基準を満たすために、24時間365日の診療体制が必須条件になる。

厚生労働省の方針として地域包括ケアシステムの構築を進めており、今後も在宅医療の需要は高まっていくものと予想される。

クリニック経営を成功させる3つのポイント

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クリニック経営で行うべき業務は非常に多く、経営戦略のプランニング、スタッフの採用やマネジメントなどの人事、広告宣伝、行政対応、資金繰りと多岐に渡る。

クリニック経営を成功させるにあたって、3つのポイントをご紹介する。

治療に対する独自の考えを持つ

クリニックの経営理念を持ち、ドクターとスタッフが同じ理念を共有しておくことが非常に重要である。

患者の病状は個人個人で異なる。患者への対応で判断に迷ったときは、クリニックの理念に基づいて判断すれば、適切に対処できるだろう。

そのようにクリニック独自の方向性を示し、他の競合クリニックとの差別化を図ることが望ましい。

競合の少ない地域を選ぶ

競合の少ない地域でクリニックを開業することで、独自性を保ちながら集患効果が得られ、クリニック経営を成功させることができる。

そのためには、地域住民の年齢層などを把握し、ファミリー向けに駐車場を設けたり、高齢者向けにバリアフリーを整えたりなど、来院する患者のことを第一に考え、安心感や満足度を向上させるように努めるべきである。

固定費を抑える

固定費とは、売上の増減に関係なく発生する費用のことで、人件費、維持費などを指す。

スタッフがすぐに辞めてしまうような事態が続けば、採用にかかるコストが余分に増えることになる。スタッフを定着させるためには、職場環境を整えて、適切な教育体制を構築する必要がある。

また、高価な医療機器は購入するのではなく業者に見積もってリースを検討する、消耗品を無駄なく大切に使うことを心掛けるなど、様々な方法を吟味することで維持費を抑えることも大切である。

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まとめ:開業資金は設備・土地建物を分けて考えよう

開業資金は、設備と土地建物を分けて考えることで、初期にかかる費用を分析し、細かく吟味することが可能となる。

クリニックの方向性を明確に示した上で、必要な設備を初期から揃えて集患効果を狙うのか、または業績を見極めながら段階的に導入するのかを検討するのが望ましい。

まずは、テナント開業にするか戸建て開業にするかを、ご自身のクリニックの理念やコンセプトをもとによく考え、クリニック開業の第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

監修税理士・公認会計士からのコメント

クリニックの開業資金は診療科目によって異なりますが、5000万円以上必要にあることが一般的です。クリニック成功の秘訣は、固定費を下げることです。開業後の節税対策もしっかりとしておきましょう。

2020年12月17日起業準備

Posted by taxtech-editor