個人事業主が開業届を出すメリットとは?記入方法&必要な書類も紹介!
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個人事業主となる場合、開業届の提出が必要である。
開業届を提出しないで事業を行う「フリーランス」という働き方もあるが、個人で事業を行う場合は開業届を出したほうが良い。
屋号で銀行口座が作れて社会的信用が高まり、様々な面で節税ができる等の優遇が受けられるためである。
本記事では、個人事業主が開業届を出すメリットについて詳しく解説するとともに、開業届の記入方法や必要な書類についてもご紹介する。
目次
- 1 個人事業主として独立に必要な「開業届」とは︖
- 2 個人事業主が提出する「2つの開業届」
- 3 開業届の書き方と記入例
- 3.1 1.納税地の「税務署名」「提出日」
- 3.2 2.納税地/それ以外の住所地・事業所
- 3.3 3.代表者氏名・捺印・生年月日
- 3.4 4.個人番号(マイナンバー)
- 3.5 5.職業(現在時点)
- 3.6 6.屋号(商業名)
- 3.7 7.届出の区分(開業・廃業・移転・新設等)
- 3.8 8.所得の種類(不動産所得・山林所得・事業等)
- 3.9 9.開業・廃業等日
- 3.10 10.事業所等を新増設、移転、廃止した場合(法人設立による廃業含む)
- 3.11 11.開業・廃業に伴う届出書の提出の有無
- 3.12 12.事業の概要
- 3.13 13.給与等の支払いの状況
- 3.14 14.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
- 3.15 15.給与支払を開始する年月日
- 4 個人事業主が開業届を提出する5つのメリット
- 5 個人事業主が開業届を提出する3つのデメリット
- 6 開業届以外に必要な書類とは?「青色申告」「給与支払」「専従者」など
- 7 まとめ:開業届の記入は簡単、青色申告も忘れずに
- 8 監修税理士・公認会計士からのコメント
個人事業主として独立に必要な「開業届」とは︖
開業届とは、正式には「個人事業の開業・廃業等届書」のことであり、事業開始の他に、事務所や事業所の新設や増設、移転、廃止を行った際に、税務署に提出する書類である。
これまで勤めていた会社から独立してビジネスを始める場合、毎月安定した収入が見込めるのであれば、開業届を提出することで様々な優遇が受けられる可能性がある。
開業届の提出手順と費用は以下のとおりである。
開業届の提出手順と費⽤
- 提出方法:持参(8:30~17:00)または郵送
- 提出先 :納税地を所轄する税務署長
- 提出期限:事業の開始などの事実があった日から1ヵ月以内(提出期限が土日祝に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となる)
- 費用 :不要
また、相談窓口も設けられているので、提出に関して相談がある場合は、最寄りの税務署の所得税担当を訪ねると良いだろう(土日祝日を除く)。
個人事業主が提出する「2つの開業届」
個人事業主が提出する届出には、以下の2種類の開業届が必要になる。
- 税務署に提出する「個人事業の開業・廃業等届出」
- 都道府県税務署に提出する「個人事業税の事業開始等申告書」
この2つについて詳しくご説明する。
1. 個人事業の「開業・廃業等届出書」(開業届)
「個人事業の開業・廃業等届出書」というものがあり、これが一般にいう「開業届」または「廃業届」である。
開業日から1ヶ月以内に、最寄りの税務署宛に提出(持参または郵送)するのが望ましい。e-Taxを利用しての電子申請も可能である。
これは、提出しなくても罰則などはないが、青色申告で確定申告をしたい場合は、この「個人事業の開業・廃業等届出書」と「青色申告承認申請書」の提出が必要になるためである。
開業届は国税庁のホームページ(下記)からダウンロードするか、最寄りの税務署で入手できる。
最寄りの税務署は、下記の国税庁のホームページから検索できる。
2.都道府県税事務所へ提出「個人事業税の事業開始等申告書」
「個人事業税の事業開始等申告書」は、都道府県税事務所に個人事業の開業を申告する書類である。
各都道府県によって提出先や提出期限に違いがあり、東京都は15日以内、大阪は2ヶ月以内など地域によって大きく差があるので、あらかじめ調べておくことが大切である。
届出は提出しなくても罰則はない。このため、税務署に開業届は提出しても、「個人事業税の事業開始等申告書」は提出しない人もいる。
開業届の書き方と記入例
以下で開業届の書き方や記入例を、項目ごとにご説明する。
記入にあたっては、マイナンバーや事業所の住所、開業日などが分かる書類を手元に用意しておくとスムーズに記入できる。
1.納税地の「税務署名」「提出日」
開業届を提出する納税地の税務署の名称と、提出する日付を記入する。税務署の名称は下記の国税庁のホームページで調べられる。
2.納税地/それ以外の住所地・事業所
「住所地」「居所地」「事業所等」のいずれかを選び、納税地の住所を記入する。
- 住所地 :生活の拠点となる自宅の所在地
- 事業所等:事業を運営するための店舗や事業所がある場合
- 居所地 :海外に住んでおり、日本に住所はないが活動場所は日本にある場合
電話番号は、固定電話と携帯電話、どちらでも問題ない。
下段の「上記以外の住所地・事業所等」の欄は、納税地と事業所を別にしたい場合に記入する。自宅が事業所である場合は未記入で良い。
3.代表者氏名・捺印・生年月日
フルネームで氏名を記入し、捺印を忘れないようにする。印鑑は個人印・屋号印のどちらでも良い。生年月日の記入も漏れのないように気を付ける。
4.個人番号(マイナンバー)
マイナンバーカードまたは通知カードに記載されているマイナンバーを記入する。
5.職業(現在時点)
職業欄は特別な決まりはないが、法定業種によって個人事業税の税率が異なるので注意が必要である。
開業してしばらく経ってから新しい事業を始めたり、職業を変えたりする場合、変更があっても新たに開業届を出す必要はない。確定申告時に変更後の職業を記入する。
また、複数の事業から収入を得ている場合は、収入が多いメインの職業を記入する。
6.屋号(商業名)
屋号とは会社でいうところの「社名」に該当する。
屋号がなければ空欄でも問題ないが、顧客や取引先からの信用に繋がり、屋号名義で銀行口座を開設できるというメリットがあるため、記入することが望ましい。
屋号は発音しやすく分かりやすいものが良い。
例としては、「〇〇屋」「〇〇ベーカリー」「〇〇美容室」など、一目で分かるものが望ましい。
しかし、「〇〇会社」や「〇〇」法人などの名称は、法務局に登記した法人格を持っている法人にしか使用できない。
また、商標登録されている商号と同じ屋号の場合は、会社法などの法律に触れる可能性もあり、トラブルに発展してしまうリスクもあるので、十分な注意が必要である。
7.届出の区分(開業・廃業・移転・新設等)
新規開業の場合は「開業」を選択し、他の「廃業」「移転」「新設」は空欄となる。事業を引き継いだ場合は住所、氏名を記入する。
8.所得の種類(不動産所得・山林所得・事業等)
- 不動産所得:不動産による所得
- 山林所得 :山林による所得
- 事業所得 :農業所得(農業による所得)や、上記以外の所得
それぞれ該当する項目に〇をつける。
9.開業・廃業等日
開業した日を記入する。開業日は提出日から1ヶ月以内になるが、厳しいルールはない。自分が開業したと認識した日や、開業届を出した日でも良い。
しかし、売上が発生した日にち以降を開業日とすることは不可である。これは、開業日の前に売上が発生するのは現実的に有り得ないためである。
10.事業所等を新増設、移転、廃止した場合(法人設立による廃業含む)
新規開業の場合は、記入の必要はない。法人設立により廃業となった場合などに記入する。
11.開業・廃業に伴う届出書の提出の有無
開業届とあわせて、「青色申告承認申請書」や「課税事業者選択届出書」、「事業廃止届出書」を提出する場合は「有」にチェックする。
12.事業の概要
事業内容について、具体的に分かるように詳しく記入する。複数の事業を運営する場合は、運営する予定の事業をすべて記載する。
記入例としては、以下のようなものが挙げられる。
- 飲食業:弁当・惣菜の調理と販売
- WEBデザイナー:企業や個人を対象としたWEBサイトのデザイン制作
13.給与等の支払いの状況
専従者(家族従業員)や使用人(アルバイトなど家族以外の従業員)を雇い入れる場合は記入する。
「給与の定め方」には、月給や日給など給与の支払いについて詳しく記載する。
「税額の有無」は源泉徴収のことであり、基本的には「有」にチェックする。
14.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
源泉所得税は、原則として給与を支払った日の翌月10日までに納付しなければならないが、従業員が10人未満の場合は、申請すれば年2回にまとめて納付できる。
申請する場合は「有」にチェックする。
15.給与支払を開始する年月日
従業員に給与の支払いを始める日付を記入する。支払い開始日が確定している場合、上記の所得税の特例制度を受けるには、必ず支払いの前月までに開業届を提出する必要がある。
所得税の特例制度を受けることで、人件費を抑えることができる。
個人事業主が開業届を提出する5つのメリット
個人事業主が開業届を提出する必要性はなく、納税さえしっかりしていれば罰則などはない。しかし事業を長期的に継続するのであれば、開業届を出したほうが有利になる。
下記で5つのメリットについてご紹介する。
1.青色申告による税金の優遇
個人事業主には所得税・住民税・消費税・個人事業税が課せられる。これらを納税するために、個人事業主は税務署に開業したことを知らせなければならない。
そして青色申告を行うと、最大で65万円の税金の特別控除が受けられる。
また、赤字を繰り越して翌年以降の黒字と相殺できる他、30万円未満の固定資産が経費にできるなど、白色申告よりも多くの節税効果が期待できるのである。
2.仕事で屋号を名乗れる「屋号の銀行口座」も作れる
開業届を提出すると、商業名である屋号の名義で銀行口座を作れるようになる。
プライベートの個人口座と事業口座を分けることができ、また、屋号名義にすることで、取引先からの信用も増すだろう。
3.「事業所得」で確定申告し、税優遇を受けられることも
開業届を出すことで、事業を行っていると客観的に認められるため、事業所得として確定申告できる可能性が高くなる。
事業所得として申請できれば、「青色申告特別控除」などの税金面での優遇が受けられる。
4.事業所得が認められると「損益通算」で処理が行える
「損益通算」とは、事業所得が赤字だった場合に、給与所得などの黒字の出ている所得から差し引いて利益と損失を相殺することである。
事業所得としての申告が認められる場合は、このようにして課税対象となる所得を減らし、節税することが可能になる。
5.クレジットカード審査等、金融信用にメリットがある
屋号があることで社会的信用が上がり、クレジットカードの審査が通りやすくなるという考え方がある。信用情報に優位に働きかけ、融資を受けやすくなる可能性もあるのだ。
個人事業主が開業届を提出する3つのデメリット
開業届を出すことは上記のようにたくさんのメリットがあるが、反対にデメリットとなる場合もあるので、注意が必要である。
1.副業で事業所得を申告した際、所属会社に通知される恐れがある
開業届を提出しただけでは会社に副業がバレることはない。しかし、事業所得で確定申告をした場合は、住民税の額が変わるため、会社の経理に「給与以外に所得があるのでは?」と疑われる可能性がある。
会社員であるかたわら、会社に黙って副業をする場合は注意が必要である。
2.失業保険の受給対象から外れる可能性
失業保険の受給には「再就職の意思がある」ことが重要であるため、開業している場合は失業保険を受けられない可能性が高い。
将来的なことをふまえた上で、開業するかしないかの判断をすることが重要である。
3.記入した職業によって税率が変動する
選択した職業によって、個人事業税の税率は3~5%の幅があるため、記入の仕方にも留意すべきである。個人事業税は経費に計上できる税金なので、節税効果がある。
しかし正しい申告をしなければ脱税とみなされる危険があるので、注意が必要だ。
開業届以外に必要な書類とは?「青色申告」「給与支払」「専従者」など
開業する際の必要書類として、開業届以外にも関連書類がある。
- 青色申告承認申請書
- 給与支払事務所などの開設届出書
- 青色事業専従者給与に関する届出書
の3つである。下記でこれらの書類についてご説明する。
所得税「青色申告承認申請書」
開業届と同時に「青色申告承認申請書」を提出すると、開業した年から青色申告が行えるようになる。原則として開業から2ヶ月以内に提出しなければならない。期限は青色申告をする年の3月15日である。
開設の届出書「給与支払事務所など」
「給与支払事務所などの開設届出書」は給与支払いが発生する場合に事業所所在地の所轄の税務署に提出する。開設以外にも、移転や廃止があった場合には手続きが必要である。
期限は開設・移転・廃止をした日から1ヶ月以内である。
同一生計者の雇用「青色事業専従者給与に関する届出書」
「青色事業専従者給与に関する届出書」は、同一生計者である配偶者や親族が専従者として事業に携わっており、給与の支払いが発生する場合に、事務所所在地の所轄の税務署に提出する。
こうすることで給与を経費として計上することが可能となるため、大きな節税が期待できる。ただし、年齢が15歳以上(学生は原則不可)、1年間のうちに6ヶ月以上は事業に従事するなどの条件があるので注意が必要である。
まとめ:開業届の記入は簡単、青色申告も忘れずに
個人事業主の開業届と聞くと、手間がかかるものだと想像される方もいるかもしれないが、項目ごとに注意すべき点に気を付けながら記入していけば、案外簡単なものである。
個人事業主は青色申告をすることにより、税金を節約することができるため、青色申告も忘れないようにあわせて申請したい。
上記の内容を踏まえ、無駄なく事業を運営していくために、是非とも開業届の提出を検討してみてはいかがだろうか。
監修税理士・公認会計士からのコメント
個人事業主として開業するには開業届を出す必要があります。ある程度の収入があると税金の優遇をしてもらえたり、信用が得やすくなる可能性があります。個人事業主として開業したらより一層税金や会計の管理をする必要があります。